2000年に作製されたアメリカ映画でロジャー・ドナルドソン監督作品であり、第3次世界大戦そして核攻撃の応酬の一歩手前までいった1962年のキューバ危機の13日間を描いた映画である。
映画はB29が海上を飛行するシーンから始まる。このB29がキューバ上空1万メートルで撮影した写真が、ソ連がミサイル基地を建設している兆候をわずかに捉えていた。わずかにというのは、顕微鏡で拡大してようやくミサイルらしき物体が写っていたという程度で、決定的な写真ではなく十分疑われるという程度であった。それでもキューバにミサイル基地が建設されると、ワシントンを始めとする主要都市が、核爆弾の射程内入るのである。にわかに核の脅威が現実のものとして突き付けられたホワイトハウスにおいて、ジョン・F・ケネディ、ロバート・ケネディ兄弟と大統領特別顧問のケネス・オドネルの3人が未曽有の難局をどう乗り切っていくかがこの映画の主題である。
アメリカ合衆国の最高権力者の住むホワイトハウスの内側で、政治的駆け引きが飛び交う様子がよくわかる。その駆け引きの内容は大統領と議会は対立する犬猿の仲であることや、隙あらばスクープをかっさらおうとするマスコミとホワイトハウスの駆け引き、そして最大の難敵として立ち塞がる軍部の高官達との丁々発止が描かれる。キューバに核ミサイル基地を建設中のソ連に対して、軍部はとにかく強気一辺倒である。声高に先制攻撃を主張する。文官達が、アメリカの先制攻撃に対して、ソ連が核で反撃に出たらどうするのかと問うても、「彼らは何もしない。」と唖然とするような答えである。「とにかく彼らは戦争がしたくてうずうずしている(ロバート・ケネディ)」のだ。実際の冷戦を知らない私から見ても、ホワイトハウスの内部でそんなレベルの議論をしているのかと驚くのだ。
映画の主人公は大統領特別補佐官ケネス・オドネル(ケビン・コスナー)である。オドネルとケネディ兄弟はハーバード大学の同窓生であり、ロバート・ケネディとはフットボール部仲間であった。第3次世界大戦を食い止めるのは、この3人の結束にかかっている。彼らにはソ連との戦争を避けることへの固い信念があった。それは彼らの世界観であり、第二次世界大戦を勝利に導いたと思っている軍部の制服組の高官達の価値観とは全く違ったものであった。実際、オドネルとケネディ兄弟が軍部をどう対峙し抑えたかが、キューバ危機を乗り越える一番の山場だったし、ドナルドソン監督はそこをしっかりと丁寧に作った。この映画の肝といっていいだろう。
この映画が封切られたとき、アメリカ本国での評価はあまり良くなかった。ケネディ兄弟と対立する軍部の姿勢があまりにもタカ派の戦争強硬論者として描かれていて、共和党支持者から反発を受けたようである。ケネディ兄弟を核戦争回避の立役者とするための敵役であったのだが、行き過ぎた言動と受け止められたようである。たしかにこの映画を観る限り軍部の制服組は悪役である。ヒーロー対悪役の構図を強調するための演出であったが、実際はもっと複雑であったのであろう。その辺はすっかり簡略され単純な構図でストーリーは進行するので、映画評論家からは高い評価は得られなかった。
以上の政治的対立の描き方がステレオタイプであった点を割り引いても、この映画は冷戦時代のひりひりするような国家間の対立の緊張感に浸ることができる。とにかくアメリカとしては、キューバに建設中のミサイル基地を撤去させることを第一に、表では国連の場でソ連の国際条約違反を非難しつつ、裏では軍部や議会には内密に米国内に潜入していたソ連の大物スパイと接触し、フルチショフと裏のルートで交渉を開始する。この表裏使いわけの外交を展開しながら、政権内部ではキューバへの搬入物資を断つ海上封鎖かあるいはキューバへの空爆かの2つの選択肢を前にケネディ側と軍部が対立する。
喧々諤々の議論の末、「まず海上封鎖をソ連に宣言し、ソ連が船舶のキューバへの航行を中止しなければ空爆に踏み切る」という2段構えの作戦を決定し、国民に向け大統領から現状の説明と核戦争の可能性について言及するテレビ演説を行った。テレビを観た国民はアメリカ史上最高度の緊張状態に陥った。
結局功を奏したのは、フルシチョフと裏ルートの秘密交渉が進展したことであった。秘密裡に提示した妥協案をソ連が汲み取って、キューバへの物資搬入船舶がすべてUターンし始めたのである。国連という表舞台とは別の裏の交渉ルートを探りそれを成すという、手練れた外交手腕を見せた。この辺の展開もぞくぞくするほどスリリングである。
キューバのミサイル基地建設の証拠を掴むために、カメラを搭載した偵察機を空母から飛び立たせ、レーダーに捕捉されないよう超低空飛行でキューバ島に接近し、対空機関銃の砲火を受けながらもミサイルを撮影して帰還するのだが、撮影では実際のエアフォースのF15戦闘機が使われ臨場感一杯である。空軍パイロットが地上支援の整備兵と交わす会話、祖国防衛の使命を身をもって示す下士官たちの立ち振る舞い。細部まできちんと作り込まれた映像は、世界が体験した未曽有宇の恐怖、「キューバ危機」を描くのに必要十分な精密さである。楽しめる娯楽大作といっていいだろう。
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