私がテニスを始めたのは40年前なので、当時教わったテニスのプレースタイルはフラットとスライスであった。1980年代だった。ボルグやビランデルといったトップスピンストローカーが台頭してきた時代だったが、テニススクールのコーチは勿論、日本の一流プレーヤーでもトップスピンを打つ選手などいなかった。
テニス雑誌の分解写真などを見てトップスピンの真似をする仲間もいたが、直にその打法を観たこともないのでよく判らないのが現実だった。サーブもフラットサーブとスライスサーブしか教わらなかったので、スピンサーブは打てなかった。1990年代になると、世界のトップ選手は1stサーブをフラットで打ち、2ndサーブをスピンサーブで打つのが主流となった。スピンサーブは山なりの軌道で飛んでいくのでネットしにくく、かつサービスエリアに収まり易いのが特徴で、ダブルフォルトを避けるためには必須のサーブ技術となっていったのである。私もスピンサーブをどうやったら打てるようになるのか、テニスジャーナルの連続分解写真を見て研究してみたが、一流選手のスイングが速くて、分解写真ではラケットの動きがよく判らなかった。雑誌にはトスを頭の上に上げてボールを擦り上げるようにすると解説していたが、実際に擦り上げても前に勢いよく飛ぶことはなく、上の方に力なく飛んでネットの手前にポトリと落ちるだけだった。
そんなことでスピンサーブは無理とあきらめて、25年間ほどはスライス気味のフラットサーブを1stで打ち、2ndサーブは緩いスライス回転のサーブでこれは威力がないので入れるだけサーブを打っていた。当然この2ndサーブでは強烈はリターンを返されて劣勢に回ることも多かった。
2018年のことだった、インターネットでロジャー・フェデラーが2ndサーブを練習している動画を見つけた。しかも超スローモーションの撮影動画もある。YouTubeである。その動画を見て長年の疑問がようやく解けたのだった。フェデラーは2ndサーブを打つときに、ラケットをネットとは約90°異なる右方向に振り抜いていたのである!しかし打たれたボールはネットに向かって飛んでいく。昔テニス雑誌に「ボールを擦り上げよ」と書かれていたのはこのことだったのだ。雑誌には擦り上げる方向については書かれていなかったので要領が判らなかった。YouTube恐るべしである。
フラットサーブはラケットをボールを飛ばす方向に振り出す。これはネットの向こうに相手がいるのだから当然なのであるが、スピンサーブは違うのだ。正確にはボールの左下にラケットのガットを当ててこのガットでボールを右斜め上に擦っていく。人間の肩と腕の構造からボールに対してこのようにラケットを動かすためには、腕を右方向に振り抜く必要があったのである。このフェデラーの動画を何度も観てイメージを頭に入れて、実際にそのとおりにネットとは90°右の方向に振り抜くスイングをしたところ、山なりの軌道でしかも威力のある、着地した後高く跳ね上がるサーブが打てたのである。
長年いくら雑誌の連続写真を見ても理解できなかった事柄が、インターネットの動画で瞬時に理解できるということ。これが時代の進歩、インターネットの社会変革の一事例ということか。感無量である。
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