黒澤明の映画で一番好きな作品だ。白黒映画である。もう6、7回ほど繰り返し観ただろうか。どこに魅了されたのか? 時は戦国、ストーリーは姫と金塊を護って敵国を通り抜け、味方の地に辿り着くという単純明快なものであること。次に物語を主として構成する人物が少人数でそれぞれの人物造形がしっかり描かれておりブレがないこと。まず美貌の雪姫。男勝りの性格で余計なことは言わない。雪姫役の上原美佐のセリフが早口でよく聞き取れず、何を言っているのかわからないままストーリーは進展していってしまうが、雪姫の美貌ゆえに許す気になってしまう。というのも、上原は短大生のとき東宝系の映画館に行った際、東宝の社員に声をかけられたことがきっかけで黒澤映画に抜擢された、演技のド素人であったからである。姫を護る3人の男たち。侍大将の武道の達人は三船敏郎演ずる真壁六平太。同郷の農民上がりの2名の足軽、太平と又七は千秋実と藤原鎌足が演じている。この二人は剣術はできないし、隙あらば金塊をくすねようと互いに牽制しあう有様である。太平と又七の役割はこの金塊運搬グループにおける足の引っ張り役であり、順調に話が進むのを阻止し、混乱を招き話をややこしくする。だが思わぬ機転で問題解決の糸口をみつけたりして、話が単調にならず起伏に富んだものにする。この4人のグループに途中から雪姫が助けた農民の娘が加わり5人となる。
隠し砦の風景がこの世のものとも思えない独特の石ころだらけの急斜面。しかもその石が火山性の軽石のように乾いていて、攀じ登るようにはいつくばっても足元がごろごろ動いて不安定である。こんな場所が日本にあるのだろうかと不思議な感覚に襲われる。調べてみると、そのロケ地は
「有馬温泉から車で約10分、県道51号線(旧有馬街道)をJR福知山線の「生瀬駅」に向かうと、太多田川(おおたたがわ)の向こう岸に屏風のように切り立った奇岩の連なる岩壁が現れます。ここは、その景色が朝鮮半島の蓬莱山(金剛山の別名)に似ている所から「蓬莱峡」と名付けられた裏六甲の景勝地です。六甲断層の断層破砕帯に白く露出した花崗岩の岩肌は、100万年にわたる風化・侵食作用のお蔭で複雑怪奇な形に削りこまれ、大小の様々な岩塔が至る所に見られます。大剣、小剣、屏風(びょうぶ)岩などと呼ばれる大小の奇岩が乱立し、風化した岩山がノコギリ歯のような険しい地形を作り出しています。殺伐とした風景が非現実的な雰囲気を表現するのに適しているため、映画やテレビドラマのロケ地としてしばしば使われています。特に、黒澤明監督の名作『隠し砦の三悪人(1958年)』の主な撮影地として有名です。」(じゃらんHPより引用)
道中予期せぬアクシデントが次々と一行を襲う。危機をチャンスに変え臨機応変に金塊を密かに運搬するロードムービー仕立てになっている。クローズアップなど凝ったカメラワークはあまりなく、全体を見せるような判りやすい構図のシーンが多い。戦の兵士達の躍動感や三船敏郎が馬で敵を追いかける場面の疾走感。どうやって撮影したのだろうかと思いめぐらす程のリアリティが溢れる。
話はテンポよく展開し、観客を飽きさせない。ストーリィの展開が読めない。金塊があっちに行きこっちに行き一行と離れたかと思うとまた戻る。変装がばれて捕まりにそうになっても、するりとかわす。ハラハラドキドキが連続し、息もつかせない。緻密に練られた脚本である。
ひとつ有名な話がある。ジョージ・ルーカスは黒澤明を尊敬していて、スターウォーズはこの隠し砦の三悪人を下敷きにしているという。スターウォーズの冒頭、ロボットのR2-D2とC3POが砂漠に不時着して喧嘩別れするところは隠し砦の冒頭太平と又七が喧嘩別れする場面とそっくりだし、ストーリー自体レイア姫を救出して帝国軍と戦うというもので似たような話である。ダースベイダーとルークが剣で戦うシーンは、六平太と田所兵衛の槍による一騎打ちに重なる。
最近話題になった朝ドラのように、前半に散りばめられた小エピソードがラストでみごとに伏線回収される、というような小賢しい仕掛けなど黒澤明はいたしません。単純明快なストーリーをスピード感を持ってぐいぐい観客を引っ張っていくのである。
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