特許制度は発明を公開する代償として、20年間の独占を認めその間に発明者の先行利益を促進するものである。これまで産業の保護と競争による発展に寄与してきた。しかし、近年特に2000年代に入ってから、製造業の中に占めるソフトウエアの比重が増大し、東京大学政策ビジョン研究センター シニアー・リサーチャーの小川紘一氏が「オープン&クローズ戦略」の中で分析されたように、特許で技術を守ることの限界が指摘されるようになった。特許は出願から公開まで1年半、公開から審査請求までが3年、審査して特許となるまで平均で1年半程度、すなわち出願から権利化までは6年程度かかるといわれている。デジタル技術にとって6年は致命的に遅い。6年経てば技術はすでに陳腐化が始まっている。デジタル技術の中核をなすプログラム、ソフトウエアは著作権でも保護されるので、企業はソフトウエア著作権のライセンスを契約で確保し、自社のソフトウエアのただ乗りや他社のソフトウエア著作権の侵害を予防する努力をしている。その中でGitHubが代表的だが、オープンソースソフトウエア(OSS)が世界的に普及し、OSSの利用なくして産業用ソフトウエアの開発、実装が成り立たない現状となっている。OSSは利用について無償のライセンスが容認されているものが大部分であり、OSSの絶え間ない改良とその成果を公開し、何人であれ利用に供するという性格を有している。よって独占権を認める代わりに公開される特許とは正反対の性格を持つものである。では、自社のデジタル技術を保護するにはどうすればよいのだろうか?
オープン&クローズ戦略を念頭に置き、特許による独占を狙う分野と標準化して開放する分野を区別し、自社のビジネスの中で両者を組み合わせて事業防衛と市場拡大を図る。モジュールとしてのOSSを組み合わせたソフトウエアもまたOSSとして公開が義務つけられいて、ある条件の基で他者へライセンスを認めるという約束となっているので、独占することは不可能である。つまり技術の独占による市場優位性の確立ではなく、技術展開のスピードによる市場優位性の確保がデジタル技術での市場優位性を進める戦略である。ソフトウエアで差別化するのではなく、提供するサービスの質や利便性で差別化を図るしかないのではないか。一方で自社領域は特許や契約で囲い込むことも必要であるし、もちろんサービスのビジネスモデル特許出願と権利化された特許について、警告書送付や侵害訴訟によるライバルの牽制も取りうる戦略の一つである。さらには秘匿すべき技術は特許を出さず、厳秘扱いで社内秘にして外部から完全に隠すという戦略もある。それには社内の秘密保持体制がしっかりと構築されていることが大前提となる。
ソフトウエア優位のIT関連技術では、協調と秘匿を技術毎に使い分けていくのだろう。オープンソースのコミュニティは企業のエンジニアもボランティアとして参加している。トヨタやホンダ、ソニーといった会社は企業の技術を依存しているOSSコミュニティに積極的に参加をして、研究時間の10%までは OSSコミュニティへの参加を「仕事として」認めるというような姿勢に変わりつつある。
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